思い起こしてみると、むべの里が事業を開始した当時、「介護」は家庭の問題であり、親の介護や認知症家族のことを誰にも相談することができずに一人で悩まれている方が多くいらっしゃいました。「老人ホーム=姥捨て山」というイメージが強く、そのような所に親を預けることは親不孝であり身内の恥というような風潮もまだまだ根強い時代でした。そのような時代風潮の中で、私たちは地域のお宅を一軒一軒回り、高齢者の福祉や介護に関する率直な意見を聞かせていただきました。また、認知症(当時は“痴呆症”)高齢者への正しい理解を広めるため、地域住民向けセミナーを開催したこともありました。そういった活動の中からいただいたお声を丁寧に拾い上げ、様々な事業に結び付けていきました。一例を申し上げますと、24時間体制の訪問介護事業、独居高齢者向けの配食事業、早朝と夕方対応のデイサービス、それから、認知症高齢者向けグループホームも県下初のパイロット事業として取り組ませていただきました。どれも制度として確立されておりませんでしたが、困っている人や弱き人の助けになりたいという強い信念があったからこそ成し遂げることができたと思っております。その後の介護保険制度開始を機に、むべの里の事業展開が一気に進むわけですが、やはり信念は常に同じです。
しかし、新しい時代局面を前にハタと考えるのです。むべの里が掲げる信念・理念が、正しく継承されているだろうか…。この22年間で売上は40億円を超えました。職員もパートタイマーまで含め800人を有します。山口県下一番の規模の法人へと成長したことによる安定感・安心感から、惰性やマンネリズムが法人内に蔓延し始めているような危機感を最近覚えます。前述したように社会福祉法の改正に伴い社会福祉法人の意義そのものが問われる時代となりました。また2025年、2035年問題を背景に、介護・医療については報酬削減と利用者負担増は必至です。介護難民、医療難民と言われる方が高齢者を中心に増えることが予想されます。そのような厳しい時だからこそ、創立時の「挑戦者」と「開拓者」の気概を持って、困っている人や弱い立場に立たされている人に寄り添い、献身的に尽くすことが求められるのです。そして、それは真に力を付けた社会福祉法人でなければなし得ないことでもあるのです。私たちは、自らの信念と使命を厳しく問い直し、今こそこの創立の精神を奮い起こして新たなチャレンジを進めてまいりたいと思います。
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